6月から暑い夏を挟んで久々の懇談会です。講師は、童門冬二氏。
★略歴 1927年、東京都生まれ。。東京都に勤め、都立大学事務長、広報室課長、企画関係部長、知事秘書、広報室長、企画調整局長、政策室長を歴任し1979年の退職後から作家活動に入る。日本文芸家協会、日本推理作家協会会員。99年勲3等瑞宝章受章。 都庁幹部から歴史作家に転じた異色の人。「暗い川が手をたたく」で第43回芥川賞候補となる。 歴史の中から現代に通じるものを好んで書く。「小説 上杉鷹山」はバブル崩壊後のリストラ時代に、経営改革という面が見直され、ベストセラーになった。 この方の話は、今年の1/16放送の“ラジオ深夜便”で、〔歴史に親しむ〕の中で「軍師 黒田官兵衛」として話したのを視聴し楽しみにしていました。 ラジオと異なり落語から学んだと思われる口調を駆使しながら豊富な資料に裏打ちされた話を90分話されました。いつもの通り私のメモをもとに講演内容をまとめてみます。 32年勤務していた都庁を51歳の時に辞めた。当時、小説家として安定した収入があるわけではなかった。そのような私にこの会の主催者から「しゃべれるか?」と聞かれ「しゃべれません」と私はこたえた。勧められて長野で上杉について話した。いわば、収入を得られるようになった恩人なので足を向けて寝られない。 戦国時代の軍師は過大評価をされているのではないか。 山本勘助にしても4回目の戦いでは上杉に戦略を読まれているし、真田幸村も最後には大阪城で負けて討ち死にしている。 上司に忠誠ではあったが貢献度からいうとどうだろうか。諸葛孔明の軍師としての働きの影響を受けたセンチメンタルな評価が多いように思う。 この中で官兵衛は異色だ。戦い以外の事にも目を向けた。 官兵衛は何よりも民を恐れた。領主が船なら民は水。次に恐れなければならないのは家臣。よい政治を行えば国は穏やかだが悪い政治を行えば嵐となって船を転覆させるという言葉を残している。 官兵衛はグローバリズムの考えを持っていた。 この会場なら、大阪人、日本人、国際人という3つの人格を皆さんは持っている。 当時は地方人としての意識はあったが日本全体を考えるという発想がなかった。 ●道州制の毛利元就と天下統一を目指した織田信長 毛利元就は、カラカサ連判状に興味を持った。 これは、農民が要求を願い出るときにその署名を誰が首謀者かわからないようにカラカサ状に書いて出すもので、この方法で水利や経済問題に対して訴えを認めた。 毛利元就はこのカラカサ連判状の手法を使い、地侍や豪族たちの連合組織をも使っていく。 当時の中国地方の西の大内と東の尼子が2大勢力だったが、弱小勢力は大勢力の中に組み込まれていく。この中で、元就はカラカサ連合を、尼子・大内への抵抗組織に育てていき、大内、尼子を滅ぼし広島、山口、岡山、鳥取、兵庫の4分の3を支配下におさめた。道州制を目指したと言える。 この毛利勢がさらに近畿へと広がりその狭間にある大名は毛利と織田方のいずれにつくのか迷った。 織田信長は、「あゆち思想」の影響を受けている。「あゆち」とは「海から吹いてくる幸福の風」のことで、真ん中にある尾張は、その風を受け止める場所という考え方だ。愛知県の「あいち」という名前もそれに由来する。信長は「あゆち」の風を尾張だけでなく日本全国に吹かせたいと考えていたのではないか。それが天下統一のポリシーへと繋がる。 信長は攻め滅ぼした城を岐阜と命名する。 また安土城の名前も、天下統一して「あゆち」の風を吹かそうという思想を示している。 ●官兵衛の先を読む力 官兵衛は、地方自治を死守するのか、天下統一後に地方を安定させるのかという考えのなかで後者を選び地方の安定を両立させる方を選んだ。 秀吉の天下となったときに、官兵衛は中津に12万石の城を持つ。当時の武将の夢は一国一城の主になるいことだったが、この時の秀吉は、一城は与えているが一国は与えていない。 信長と秀吉と家康の性格を“鶯を泣かす”例えで言われるが、それぞれの世代の日本国に対する働きを言ったものだ。 旧体制(足利幕府)を破壊し(信長)、建設し(秀吉)、維持する(家康)。 秀吉は建設期に入り軍事の才能よりも、経理に明るい三成タイプの補佐役が必要になり、官兵衛と距離を取り始めたといえる。 大坂夏の陣で勝機があったとすればそれは 豊臣秀頼の出陣した場合であった。 当時三成に反発して徳川方についた秀吉恩顧の武将は、秀頼が総大将として出陣してくれば、西軍に弓を弾くことはできない。 このとき、秀頼の出陣を思いとどまらせたのは、黒田官兵衛の息子の長政だった。 おそらくこの親子は、次の天下の流れが家康になることを見通したのだろう。 家康が長政に筑紫62万石を与えたのは、この進言のバックにいる官兵衛への感謝の意味合いがあったのだと思われる。 当時、中津の地にあった官兵衛は三つの関所の港に高速艇を配置し、大阪の情勢を逐一入手できるようにしており情報収集には長けていた。 長政が62万石の大名になり、官兵衛は黒田家のが発展していくスタートの地、備前福岡の地名にちなみ、福崎を福岡に変えた。 このとき町人の街、博多衆が反対運動をおこすが、区域を分けて福岡と博多の名前を共存させた。長政は様々な改革に着手をするがその中に“異見会”の設置があった。 これは、ボトムアップの仕組みづくりで、下からの意見も政治に反映をさせる仕組みづくりだった。 ●二代目を育てる 当初は“異見会”はうまく機能をしていた。如水(官兵衛)は参加はしていたが意見を出すことはなかった。 あるとき、若手の意見がこの会で注目を浴びた。長政はそれを取り上げ皆の前で褒めた。 このことを如水は、決定権を持つ社長が入社した社員の意見の従ったとみて自分の亡き後を心配した。 武田信玄が逝った後の武田家滅亡の轍を踏みたくなかった。 そのために死期が近づいたことを悟った如水は、長政を自分を超える人間にすることに専念する。栗山利安や母里友信など腹心の部下の悪口を言い始める。それをいさめる長政に対し如水は、「功績があり幼い時からともに戦った彼らに詫びている。自分の亡き後、長政への影響力をなくすためだ。決断し決定をするのはお前ただ一人。決定権を放棄したお前をただすためだ。」といったという。 死期を悟った如水は「もう1週間しか命がない。金はない。形見をやろう。」といって、草履と下駄を1足ずつ与えた。しばらくして「お前は、形見の意味を考えているだろう。下駄と草履に何の意味もない。お前の悪い癖は何か意味があるとくそまじめに考えることだ。決断が鈍った時には草履と下駄を思い出せ。」 この後、長政は生まれ変わったように意図が変わり名二代目となった。 同じ二代目将軍の秀忠はこの話を聞き“談絆の会(2代目の集まり)”を作り、長政を呼んだ。 長政は、いずれも父如水が言った言葉として ・重箱をすりこ木でかき混ぜる(隅の方はほじくるな) ・荒海の牡蠣になれ(波にもまれて角は丸くなる) ・将兵の失敗は2度は許して3度目は首にせよ(軍の統率がとれる) これに対して、秀忠は「お前はただ一つ嘘を言っている。いずれも、父が述べたと言っているが実はお前が思っていることを述べたのだろう」といったと伝えられている。 ドラマでは、官兵衛は有岡城へ行ったとき「この書状を持つ男の首を撥ねよ」とあったとされているが、官兵衛ほどの人間なら、事前の書状を読むことはするだろう。ともにキリスト教に入信していたので説得ができると思ったのだろうし、荒木の方も信徒であり殺さずに信長の手前、牢に留め置かざると得なかった。 秀吉が軍師を持ったのは当時の流行でアクセサリーとして持ったのだろう。秀吉自身、軍師的な才能を十分に持っていた。 官兵衛が九州で謀反を起こし天下を狙おうとしたという説があるが、地方の中級大名にそんな力もあるわけがなく、官兵衛は生涯誠実な生き方をした人物だった。 私は物書きだ。今まで話したこともどこまでほんとでどこまでが創作かわからない、眉に唾をつけて聞いてもらえばいい。 童門冬二氏のインタビューとしては、ここ(クリック)にも内容がまとめられています。
by okadatoshi
| 2014-09-03 21:59
| 講演会記録
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Comments(4)
すごく面白くて 思わず引き込まれてしまいました。 毎回 素晴らしい講演者を呼ばれる会なので 私まで楽しみにしています。 わかりやすい文章にしていただいているのでしょうが メモを見ながら ここまでの文章にされるのは大変だったと思います。 いつもながら ありがとうございます。 「大返し」の山場を越えて 少し遠ざけ気味だった大河ドラマですが お陰で 違う角度から見ることができるような気がして 再度楽しめそうです。
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okadatoshi at 2014-09-03 22:42
shinamamaさま
この方は海軍兵学校卒、美濃部知事の原稿のゴーストライターと異色の経歴です。 曽野綾子さんの方は少しお年を召したかなと感じましたが 童門さんの方は、86歳という年齢を感じさせません。 落語がお好きなもか、それぞれのしゃべ口調も出ておもしろい内容でした。 まとめるのに4時間かかりました。
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by
kazewokiru at 2014-09-04 10:23
okadatoshi 様
歴史は(も)苦手ですが、童門冬二氏は良く知っています。 >重箱、荒海、将兵、、云々は、お前が思っていること、、が、的を得ていますね。 寂聴さんは、体調を崩しておられるようですが、 86歳にして90分の講演とは、作家さんの『伝え聞かせる』エネルギーを感じます。
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okadatoshi at 2014-09-04 15:39
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