人気ブログランキング | 話題のタグを見る
2014年の中国経済の行方
2014年の中国経済の行方_b0036638_2134070.jpg3月に引続いて久々の懇談会参加です。

講師は、柯 隆((か りゅう、英語: Ke Long、1963年10月 - 。富士通総研経済研究所 主席研究員)で日本のエコノミスト。学位は修士(経済学)。株式会社富士通総研経済研究所主席研究員、広島経済大学経済学部特別客員教授、静岡県立大学グローバル地域センター特任教授。
株式会社長銀総合研究所国際調査部研究員、株式会社富士通総研経済研究所上席主任研究員などを歴任した。

★略歴
1963年 中国南京市生まれ、1986年南京金陵科技大学日本語学科卒業、1988年来日。
1992年 愛知大学法経学部卒業
1994年 名古屋大学大学院経済学修士
1994年 長銀総合研究所国際調査部研究員
1998年 富士通総研経済研究所主任研究員
2005年 同上席主任研究員
2007年 同主席研究員
2000-2009年 財務省外国為替審議会委員、財務政策総合研究所中国研究会委員
2001-2002年 JETROアジア経済研究所業績評価委員

両国を行き来しながら最新の中国事情を日本側から見た話をされました。
エコノミストとしてわかりやすい解説で、私のメモを元に当日の話の印象をまとめたものです。

●最近の仲間内の話題

中国人で日本在住の研究者の話題は、朱建栄さん(東洋学園大教授)の逮捕拘束だ。
彼は出張の途中に上海に立ち寄りそこで半年間拘束されこの3月に日本に戻ってきた。
理由は不明。日本での彼の発言は、どちらかというと中国政府を擁護していて、私の方が批判的な発言をしていると思う。われわれ中国人が公の場で話すのには危険が伴う。私もいつ逮捕されかわからない。(笑)

●中国を囲む国際関係

最近ではベトナムでの紛争があるが、これからも中国の東アジアでの周辺国との摩擦は起きるだろう。
中国の発展が予想よりも早すぎて、周辺のガバナンスが追い付かない状態になっている。
話し合いができる枠組みが用意されていないのが現状だ。アメリカも弱くなり誰が中国をガバナンスするのか。
日中関係も40年前の良好な蜜月時代には戻ることはないだろう。
当時の日本は経済力もあり交流を盛んにおこなった。現在の経済7団体は高齢化し若者も中国には行かない。
発展している中国のことを知らないのだ。

●中国の若者の変化

救いは中国に日本のことを知りたがる若者が増えていることだ。
私が育った1970年代は愛国教育と反日教育がメインだった。
当時は外国からの情報は入らずラジオは朝から晩まで洗脳放送を流していた。
私は中学になってからジャンク品を購入して短波放送を組み立ててアメリカのVoice of America を聞いてアメリカに“洗脳”されていた。
当時の法律ではこのような外国の放送を聞くことがバレれば無期懲役だろう。今から考えると危険なことをしたと思う。
当時の若者は入試に「日本の軍国主義」が出るので丸暗記をした。
今も同じように教育をしているが、当時にはないWebサイトから情報が入る。
中国政府はファイヤーウォールを作ってネット情報を遮断しようと試みるが若者はそれを乗り越えるソフトを作っている。
今の若者は日本のアニメに親しみ、進学を果たせば詰め込みの暗記は忘れるので洗脳をされていない。

●案件事項には蓋をする

歴史認識が両国間での解決は難しい。歴史学者同士の話し合いでもコンセンサスができない。
互いの妥協点を探りそこから先は蓋をして二度と開けない。
尖閣諸島以外にも中国はベトナム、韓国とも領土領海問題を抱えている。国際法上領土問題をどこまで遡ることができるのか500年前か1000年までいくのか規定はない。
領土・領海問題の決着は国力によって決まる。イギリスとアルゼンチンがフォークランド諸島の領有権を争った。イギリス固有の占有領土とはいえない。紛争時にアルゼンチンに国力があれば取り戻せた。
幸いというか今の尖閣には石油もガス田もなく特に領土問題で白黒をつける必要はない。
二つの案件には蓋をする道しかない。
10日ほど前に北京で非公開のセミナーがありそこで、中国政府は日本が普通の国になることを自覚し対応を考えなければいけないと話した。
集団的自衛権の論議が出て日本も(防衛問題で)普通の国に向かっている。どう平常心で立ち向かうか、日本も周辺国への影響を配慮する。ここではこれから先には触れない。

●中国国内で何が起きているのか

中国は改革開放政策が35年経った。この間中国は社会主義国家とは言えない矛盾を抱えながら経済的な成長を遂げた。今のような共産党政権体制は難しく歴史の曲がり角に来ている。
このような状態に対して考えられるオプションは
1)毛沢東の時代への回帰。これは、まず今さらあり得ない。
2)次に西欧のような国内の民主化への移行がある。
しかし今の習 近平は共産党一党独裁の否定に繋がり、この路線を選べない。
1)と2)ダメとなると3つめのオプションは革命になる。
現在8600万人の共産党員がいるが、このほとんどは共産党のイデオロギーを信じてはいない。自分の利益を求めて党員になっている。ある程度の経済成長が続けば党員全体に利益をもたらすが、経済が減速すればこれら党員に利益が行かなくなる。
これは地元の新聞に掲載されていた記事だが、広東省で小学生が“私の夢”という作文で「将来、腐敗幹部になって賄賂を得たい」と書き、さすがに問題として報じられていた。
共産党はイデオロギー上の結束はなく利益追求の集団。利益が行き渡る間は党は維持される。
そうならなくなったときは求心力が低下する。
現在は特定の幹部に富が集中し一般党員に不満が出ている。

以前日本の霞が関の官僚の腐敗として「深夜に帰るときのタクシー券で帰る」という指摘のワイドショウがあった。あれは、タクシー会社の努力であって中国の腐敗とは大きく違う。
内モンゴル自治区で鉄道局の副局長(日本でいえば課長補佐)が就任以来22か月の間に20億人民元の賄賂をもらった。逮捕されてかれが何が大変だったか訊かれて「毎日運び込まれる賄賂の隠し場所を見つけるのが大変」と言ったと報じられていた。この5~10年の間に中国幹部の腐敗はその限度を超えてしまっている。
山東省の副知事は金以外にも146人の愛人を囲っていいたという。
この話を他の場所で話したら、“146”という数字だけ覚えた方がいた。
レジュームチェンジ(政権交代)は大きなリスクを伴う。13億6千万人の人口を持つ中国で革命が起きればグローバル社会にとっては悲劇になる。
天安門事件から25周年を迎える6月5日まで中国では知識人の拘束が相次いでいる。

政府が恐れているのが少数民族によるテロだ。
日本は大きくいえば単一民族国家だが、中国は55族。そのほとんどは同化しているが、ウイグル、チベット、モンゴル、朝鮮族は別。この中で朝鮮族は漢字文化で言葉も同じ。モンゴル族は騎馬民族で強硬な考えは持っていない。チベットは仏教徒で人を傷つけるような行動までやらない。
ウイグル族はイスラム教徒。中国政府は力で抑えつけようとしているが間違っていると思う。ウイグルの勝ち組の親中国層以外には富が行かず国境に近く守りにくく外からアルカイダなどの影響も受けやすい。
ウイグル問題は中国社会のリスクになっている。平和的な手段で向き合うしかない。力を力で制するにはさらなる暴力を生む。

ジニ係数(0は平等1は一人だけ王)の値が大きいほど不安で0.3までが安定、0.4以上は不安定な社会とされているが、政府は0.47と発表し不安定化している。
私が小学校の頃は大半が貧しかった。工場長と工員も同じ官舎に住み工場長の家が少しだけ立派で差は大きくなかった。
今の中国社会では、国営企業の工場長は別荘に住みベンツに乗っている。労働者はなお自転車だ。
労働分配率で見ると、アメリカ 70%、日本 62%、中国 39%だ。低所得者ほどボトムアップが遅い。
JAや労働組合もない。税の徴収も不公平だ。所得税はサラリーマンからは取っているが金持ちなどその他の取得は一律20%しか課さない。日本では3億円に遺産があれば、50%は相続税で持ったいかれるが中国には相続税というものがない。
また中国では有力者の所得調査ができない。習 近平の親族の税務調査などあり得ない。
一党独裁なので日本のような野党がなく与党を追及する仕組みがない。

●シャドウバンキング

言葉から来る定義と離れて中国の社会では高利だが短期のつなぎ資金として経済には貢献をしている。
中国では設備投資には友人同士融通を聞かせて資金を集め、つなぎ資金の時だけ地下銀行を使っている。
今問題になっているのは正規の金融機関の運用だ。普通金利は1年物で2.75%。4~5%の商品までは大丈夫だが7%以上は危ない。地方政府が預金を信託で集め不動産に投資をしている。これを地方政府が応援して財テクに走っている。今後波状的に問題が生じるだろう。

●この20年間で日本が失ったもの

日本企業は中国に2万5千社が直接投資をしている。協力会社は1万5千社。一部上場の65%が中国に行っておりグローバル市場との付き合いがある。
この20年間で日本は1988年のバブル崩壊後、国力を失った。
これをどう立て直し強化をするか考えたい。
先ず人材育成。教育改革が必要だ。単に進学率の上昇ではない。
日本の大学問題は一目瞭然。日本の大学の図書館には人が少ない。試験の前にはコピー機に前に行列ができる。中国や英国の大学に私はよく行く機会があるが、図書館は勉強する学生で盛況だ。
学は受験料で稼いでいる。入学金でぼったくり、英文科を出ても英語が話せない。

日本の企業が失ったものはブランド力。
世界に企業トップ20社で日本企業はトヨタだけだ。その前はソニーもあった。
私が若いころにの中国で結婚するとき女性が希望した洗濯機、冷蔵庫、テレビの三種の神器はすべて日本製品だった。それとなぜかCASIOの時計。

この20年間コストカットの経営を追求した。決算のバランスシートを考え最適化ではなくリストラに走った。
これでは社員のモチベーションは下がる。コストカットは元気をなくしブランド力の低下につながった。
家庭の奥さんが収入が減れば同じ率で亭主の小遣いを減らすのではなく他で切り詰めて小遣いを増やす。その方が亭主はさらに人と付きあい浮気もしないでより新しい情報を得るだろう。

商品を売るセールスポイントとして「性能を売る」時代は終わった。SEIKOが1年で誤差10秒の時計を作ってもせいぜい一個3万円。ロレックスは時刻が正確ではなくても最低で一つ60万円はする。人々はとレックスを持つことがカッコいいと思っている。
日本企業はブランドバリューをどう知らせるのかという観点が抜けている。
日本の物づくりの現場にはデザイナーがいない。
アップルは今回バーバリーCEOを副社長に向かいいれた。今後斬新なものが出てくるだろう。
最近の日本の工場では挨拶をしない会社が増えた。また経営者が現場に顔を出さなくなり現場力が落ちている。経営者と従業員をの距離を短くすることが大切だ。
アップルの創始者のスチーブの凄いことは自分の言葉でプレゼンテーションをしたことだ。このことが聴き手に感動を伝えた。
日本に企業のCEOは直接消費者にプレゼンテーションをしない。
by okadatoshi | 2014-05-21 21:05 | 講演会記録 | Comments(4)
Commented by kazewokiru at 2014-05-22 09:45
okadatoshi様
興味深く読ませて頂きました。
僕の周りには、中国に好印象を持っている方は少ないように思います。
中国人に対する偏見があり、昨今の中国の日本に対する外交姿勢にも起因しているのでしょう。
1週間ほど前に上海から出張で戻られた知人は、3年前に出向いた頃と比べ、さらに進化していた様子を興奮して話してくれた。
日本よりはるか先を行ってるとも言った。(日本をどこまで知ってるのか知らないけど)
どこでも大声で話し、ルールやマナーを守らない(知らない)、観光客が中国のイメージを低下させている。
中国に好印象を持っていなくても、身の回り生活用品はmade in chinaで溢れている日本はどうなってるの?と、首を傾げます。
「話せばわかる」的な日本の外交姿勢から、一歩前に進んで欲しい。
Commented by okadatoshi at 2014-05-22 13:20
kazewokiruさん
長文の流し書きへのコメントありがとう。
blog話題としてはあまり興味を引かないのではと思いつつ加齢防止の訓練です。
レッテルを張って一方的な決めつけや罵詈雑言の“読む前から内容がわかる”文章にはならないように、この人はどういう立場で何を言いたいのかをまとめてみました。
率直に中国の腐敗の現状を生に聞けて収穫でした。
中国の文化は好きですが、国家という鎧を着てしまうと厄介な隣人に変貌をします。
さまざまな立場を受け入れるバッファを持ちながら意見を述べる姿勢が必要なんだろうと思います。
Commented by shinmama at 2014-05-22 15:13 x

3度読ませていただきました。
1度目は 中国出身の方の講演なので、最後には中国を肯定しているではないかと 穿った目線で読み
2度目は 一つ一つに 自分の意見や感想を入れながら読み
3度目に 講演者は何が言いたかったのだろうと 考えながら読みました。

最近、中国人の人口と日本人の人口を比べてみれば、
これからの両国の関係が見えてくる気がしてなりません。
 
Commented by okadatoshi at 2014-05-22 18:06
shinmamaさま
世界の人口70億人のうち、中国が13億6千万人、インドが12億4千万人。
その推移を見ると両国ともまだ増加しやがてインドが一位になると言われています。
http://ecodb.net/ranking/imf_lp.html
逆に1億2千万人の日本は減少傾向に歯止めがかかりません。
世界の人口の4分に1を占める中国は、資源が人になりそのパワーで中国の思惑が世界標準になりかねないとこまで来ています。
グローバル化の中で中国抜きではものごとが決められない。
今後中国基準に従わないと貿易も何も影響を受ける。
講演でも触れられてますが、彼の国の政治体制が破たんし緩やかな民主化以外のオプションに陥ったら他の国々も大きく巻き添えをくって行きます。
厄介な隣人との付き合いが日本の為政者には求められます。
中国の行く末を判断するのは海外に居を定めないと見えてこないのではと思います。
憲法改正という本来の手段が時間的に無理という政治判断で、解釈の変更という憲法の精神自体をまげてまで集団的自衛権容認を進める現政権はアメリカの傘の中で身を守る道を選択していくのでしょう。
<< 現職のOBをゲストスピーカーに(2) 西の出講日 >>